婚約破棄を言い渡されたので思わずビンタしてしまい悪女呼ばわりされているけれど、再会した幼馴染の王子からの愛が止まりません

 ビンタ事件から数週間が経った。相変わらずクレアは悪女と呼ばれ、社交の場に出ても誰も近寄らない。この日、王城で開催された上流貴族向けの舞踏会に出ることになったクレアは、来てそうそう帰りたくてたまらなかった。上流貴族向けの舞踏会に出るのも、王城へ来るのも最近ようやく成人したからこそのことで初めてで、余計にクレアは居た堪れなくなっていた。

「あの御令嬢が婚約破棄されてビンタしたっていう?」
「腹いせに相手のご令嬢に執拗に嫌がらせまでしているんでしょう」
「すごいな、そんことをするようには見えないが、だからこそ悪女なんだろうな、怖い怖い」

 相変わらず勝手なことを言われている。嫌がらせなどしていないのに、まだしていることになっていてクレアは悔しさのあまりドレスをぎゅっと握りしめた。どんなに嫌がらせなどしていないと言ったところで誰も聞く耳を持ってはくれない。ただ噂話に格好のものが見つかったので楽しんでいるだけで、本当のことなど誰も気にしていないし、そんなことはどうでもいいのだ。

(おばあさまに絶対に行けと言われた夜会だから仕方なく来たけれど、やっぱり来るべきじゃなかった。もう、壁の花になってやり過ごすしかないわ)

 祖母がクレアの家では絶対的権力を持っており、祖母の命令は絶対だ。クレアはそっと壁際に立ち、床をぼうっと見つめていた。

「クレア?」

 ふと、聞き馴染みのある声がする。目の前に影ができて見上げると、そこには礼服に身を包んだ、柔らかい銀髪の髪にスカイブルーの瞳の見目麗しい青年がいた。

「……ギアルお兄様!?」

 クレアが驚いてギアルを見つめると、ギアルは嬉しそうに微笑む。

「クレア!やっと会えた!ずっと会いたかったんだ。よかった」

 そう言いながら本当に嬉しそうに微笑むギアルを見て、クレアの冷え切っていた心が一気に溶けていく。まるで日の光に当たってほんわりと暖かさが身体中に巡っていくようだ。