婚約破棄を言い渡されたので思わずビンタしてしまい悪女呼ばわりされているけれど、再会した幼馴染の王子からの愛が止まりません

 ビンタ事件後、なぜかクレアがアリーネに嫌がらせをしているという根も葉もない噂が流れ、クレアは悪女だというレッテルを貼られることになった。

「どうしてビンタなんてしたの!しかもアリーネ嬢に嫌がらせまでするなんて」
「私、嫌がらせなんてしてません!」
「そんなことはどうでもいい!お前は我が家に泥を塗る気か?悪女なんて呼ばれて、お前にはもう婚約の申し込みなど誰からも来ないだろうな。全く、なんてことをしてくれたんだ」

 両親からは責められるばかりで、誰もクレアを慰めてくれる人はいない。

(私が悪いの……?確かにビンタはするべきじゃなかったって思ってるけど、……でも勝手に浮気して勝手に婚約破棄してきたのはオリヴァーなのに、誰もオリヴァーを責めずに私が悪者扱いされるなんて)

 両親との話が終わり自室に戻ったクレアはベッドの上に突っ伏した。

 オリヴァーとは両親が決めた家同士の婚約だ。だが、婚約する際にオリヴァーはクレアに家同士の結婚ではあるけれど君を愛していきたいとそう言ってくれたのだ。婚約中もクレアに優しく、とても大切にしてくれて、これからこの人と一緒に生きていくのだと嬉しく思っていた、それなのに。
 アリーネと一緒にいたオリヴァーは、まるで別人のようだった。自分の前にいたオリヴァーとアリーネの前にいるオリヴァー、どちらが本当のオリヴァーなのだろう。クレアの両目からはポロポロと涙がこぼれて止まらない。

(こんな時、ギアルお兄様がいてくれたら……)

 母方の遠い親戚の子供で、小さい頃によく一緒に遊んでいた三歳年上のギアル。ギアルが成人してからは忙しいようでほとんど顔を合わせていなかったが、手紙のやりとりは毎月のように行っていた。

 母方の遠い親戚の子供というだけで、ギアルがどういう家の出身なのか、どこに住んでいるのか、詳しいことはなぜか何も教えられていない。それでも、幼馴染で気が合い、クレアのことは妹のように可愛がってくれていた。

(ギアルお兄様だったらこんな時、きっと慰めてくれるのに……でも、悪女なんて呼ばれる私なんかに関わったら、お兄様に迷惑がかかってしまうわよね)

 ギアルに会いたい。でも会えないし、ギアルのためにも会ってはいけない気がする。
 小さくため息をついて、クレアはそっと瞳を閉じた。