わたしを「殺した」のは、鬼でした

 飢えるのが先か、凍え死ぬのが先か。
 冬の山の中では、凍える方が先だろうか。
 いつの間にかはらりはらりと舞い落ちはじめた雪に、わたしはつい、自分の名前を嗤う。

 ユキ……漢字を当てれば「幸」だそうだ。
 わたしを憐れんだ乳母が、親に名をつけてもらえないわたしを、そう呼んだ。
 いつの間にかその名が定着し、父はわたしに名付けなかったことを忘れて、わたしの名を「ユキ」とした。
 幸……忌み嫌った娘にその名がつけられたことに、父は何も感じなかったのだろうか。感じなかったのだろう。父の中で、わたしの存在はどうでもいいものだったのだろうから。

 それにしても、冬の山は暗い。
 帝都では夜もガス灯が煌々としているけれど、周囲に民家もない山奥では頼れるのは月あかりだけだ。
 その月も、ゆっくりと漂う雲に覆われ、気が付いたら見えなくなっていた。

 ……わたしは、明日の朝まで生きていられるかしら?