わたしを「殺した」のは、鬼でした

 わたしの髪が黒であれば、たとえ無能であろうとも捨てられることはなかっただろう。
 無能だとしても、産んだ子が無能だとは限らない。
 過去には無能の母から強い力を持った子が生まれたこともあり、道間家では、たとえ無能であろうとも、次代の「母体」として丁重に扱われる――色が、「黒」であれば。

 だからわたしの髪が黒であれば、きっとそれなりに可愛がってもらえただろう。
 母も心を病むことはなかった。

 わたしはそっと自分の髪に触れる。
 ろくに手入れをしていないから手触りはごわごわしていて、ちっとも綺麗でないわたしの髪。
 離れに閉じ込められ、座敷牢のように小さな部屋の中、ただ生かされていただけのわたし。
 それでも、屋根のある部屋にいられただけましだったなと、はあ、と白い息を吐き出しながら思った。