わたしを「殺した」のは、鬼でした

(そういえば、あれの名を知らないな)

 あれはもう道間ではない。ならば名を確かめておかなくては、いつまでも「女」だと困るだろう。
 何が困るのかはよくわからなかったが、千早は言い訳めいた理由をつけて女に名を確かめてみようと思った。

 青葉を部屋に残し、女が寝ている部屋へ向かう。
 部屋に入れば、やはり女は目覚めていた。
 抱きかかえて運んできたときにひどく体が冷えていたので部屋を暖めさせたが、暖かくしすぎただろうか。暖かいというより、少し暑い。

 襖を締め女に近づいていくと、女は緩慢な動作で瞬きを繰り返し、それから布団の上に正座をした。
 状況が理解できていないのだろう、不思議そうな、困ったような、そんな顔をしている。
 拾ったときは薄汚れていたので気づかなかったが、よくよく見れば、なかなか顔立ちの整った女だった。汚れを落とせばそれなりに見られる顔になるだろう。
 この女をどうするか決める前に、少し揶揄ってみることにした。