わたしを「殺した」のは、鬼でした

「冗談だ。俺はあとでいいから、ほら、先に入れ」

 座布団の上に座り直し、千早様が急須に残っていたお茶を茶碗に注ぎ入れた。
 ほっと胸をなでおろして、熱くなった頬を押さえながら、わたしはやや急ぎ足で脱衣所へ向かう。

 ……びっくりした。千早様も、あんな冗談言うのね……。

 真顔だったから冗談に聞こえなかった。
 まだどきどきとうるさい胸の上を抑えて深呼吸をした後で、わたしは帯をほどく。
 お風呂は乳白色で、少しとろみがあった。
 先に体と髪を洗った後で、十人は優に入れそうな広いお風呂に身を鎮める。
 お風呂場からは山の様子がよく見えて、遠くで鶯が鳴く声がした。
 日が落ちはじめた時間帯なので、空は薄い茜色に染まっている。

 今日から一週間、この宿で千早様と二人きりだ。
 くすぐったいような、どきどきして緊張するような、それでいてそわそわしてしまうような、朝起きた時から、そんな不思議な感覚が続いていた。
 宿で、ただのんびりするだけの予定なのだけど、それが逆に贅沢な気がする。