わたしを「殺した」のは、鬼でした

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 牡丹様の予想通り、千早様はびっくりするほどあっさり温泉行きを決めた。
 すっかり葉桜となった桜の木が転々とする山の中、牡丹様のおすすめの温泉宿はあった。
 山の中にはまだ雪が少しだけ残っていて、宿の門の前につるされた提灯の灯りが反射して、雪を茜色に染めている。

「暁月様、お待ちしておりました」

 門をくぐれば、玄関で女将さんと数人の中居さんが出迎えてくれた。
 少しふくよかな女将さんは、福笑いを連想させる目じりの下がった優しい顔立ちをしている。
 案内されたのは、縁側から谷が見下ろせる景色のいいお部屋だった。
 生まれてはじめて訪れた温泉宿は、とても広くて豪華で、ちょっと気後れしてしまう。
 お部屋の豪華さから言えば、千早様のお邸の方が上回るだろうが、宿というだけで特別な感じがした。

 お部屋は内風呂つきで、縁側と同じように見晴らしのいいところに檜で作られたお風呂があるそうだ。
 茶色い蒸し饅頭と一緒に出されたお茶を飲みながら、わたしはちらりと千早様を見た。