わたしを「殺した」のは、鬼でした

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 そんな、ちょっと気恥ずかしくも幸せな日々が二週間ほど続いた、ある日のことだった。

「温泉、ですか?」

 そろそろ衣替えをした方がいいだろうと、千早様のお着物が入った箪笥を開けていたわたしは、お手伝いを買って出てくれた牡丹様の言葉に作業の手を止めた。

「そう、温泉。春の今くらいの季節に入る温泉もまた格別よ。せっかくだから千早と行ってらっしゃいな。身の安全がどうとかって邸にこもりっぱなしだけど、いい加減お出かけしたいでしょう?」

 わたしを連れ去った三人の男性について、千早様も青葉さんもいまだに情報を得られていないそうだ。
 そのため、わたしの身を守るために、お邸の外どころかお庭であっても、一人で下りないようにと言われている。
 千早様と一緒にならいいと言われたけれど、もともとあまり外出をなさらない方だから、祝言の前に千早様のお父様のお墓にご挨拶に行った切り外には出ていなかった。
 わたしは千早様のおそばにいられたらそれで幸せなのだけど、牡丹様から見れば、わたしが退屈しているように見えるのだろうか。