わたしを「殺した」のは、鬼でした

 千早様のお母様は、千早様が幼少のころに亡くなられたと聞いた。
 長い寿命を誇る鬼でも、病気や怪我などで命を落とすことはある。千早様のお母様は重い病にかかられて、そのまま儚くなられたそうだ。

「形見としてわたしがいただいていたのだけど、よかったら明日使ってほしいのよ。その方がお義姉様も喜ぶと思うの」
「でも、そのような大切なもの……」
「大切だからよ。千早もきっと喜ぶわ」

 千早様が喜ぶと言われれば、わたしは頷くしかない。
 でも、やっぱり恐れ多くて、もし、落としでもして欠けてしまったらと不安になった。
 そんな不安に気づいたのか、牡丹様が柔らかく目を細める。

「大丈夫よ。明日は、絶対に落ちないようにわたしが整えてあげるから」

 明日の祝言は、お邸の一室を整えて行う。
 白絹や花で飾られた中で行う祝言は、千早様とわたし、そして青葉様と牡丹様のみ同席するお祝いの席である。
 本来であれば数日かけて行うのだが、わたしは鬼の里に家も家族も持たないので、千早様がわたしの家にいらっしゃる儀式はない。
 なので、夜に千早様とわたしが杯を交わし、短いお祝いをするだけの簡素なものだ。
 むしろわたしには昔ながらのひっそりとした婚礼の儀の方が落ち着くので助かる。
 帝都で流行しはじめた結婚式は、少々派手で落ち着かないのだ。