「鶴よ鶴! 絶対、鶴!」

 純白のお着物を前に、牡丹様が拳を握り締めて熱弁を振るっていらっしゃる。
 わたしは一歩離れたところでその様子を見ながら、並べられた豪華な婚礼衣装に何度目かのため息をついた。

 千早様の申し出をお受けして、彼の妻になる決意を固めた翌日。
 牡丹様が懇意になさっているお店から、たくさんの婚礼衣装が「見本」として運び込まれた。
 鬼の祝言はよくわからないので、牡丹様を頼ろうと思っていたのだけど、お着物が運び込まれたあたりからどうにも雲行きが怪しい。
 お着物の柄を何にするかと言うところで、牡丹様と青葉様の意見が対立し、激しい口論に発展したのだ。

「母上は何を言っているのですか? お館様の紋は紅葉です! お館様の妻となるのですから、紅葉の柄を選ぶべきです!」
「青葉こそ全然わかっていないわ! 鶴一択に決まっているでしょう? 婚礼衣装は昔から鶴って相場が決まっているのよ!」
「それなら帯に鶴を使えばいいでしょう! 紅葉です! 絶対に紅葉です!」