わたしを「殺した」のは、鬼でした

 うずくまったままのわたしに、彼は忌々しそうに言う。
 女狐なんてはじめて言われた。
 何の力もないちっぽけなわたしが「女狐」なんて呼ばれるとは――、その言葉が決して誉め言葉ではないことはわかったけれど、なんだかおかしくなる。

 彼はわたしを、道間の人間と警戒しているのかもしれない。
 魑魅魍魎を払う力もなく、父から忌み嫌われていたわたしなんて、警戒する必要はどこにもないだろうに。

「……ふふ」
「なにがおかしい」
「いえ……」

 寒さで、わたしの頭は動きが鈍くなっていたのかもしれない。
 この状況で笑えた自分に、わたし自身が驚くと同時に、ああ、それもそうかと得心する。

 ――一人で死に逝くさだめだと思っていたのに、誰かに看取られることが……たとえそれが、わたしを憎んでいそうな鬼だとしても、それが、わたしは嬉しいのだ。