「あのふたりを、見返したくない?」

 まるで悪巧みを持ち掛けるかのように、顔を寄せてきたシェリーが声を潜めたので、返すリデルの声もつられて小さくなる。
 

「見返すって……どうやって?」

「リデル、あなた全然お化粧しないでしょ?」


 その通り、リデルはシーナやシェリーに比べると、化粧をしていない。
 全くしないのではなく、瞼や頬、唇には色は乗せないが、不健康に見えない程度に顔色を整えるクリームは塗っている。

 だが、そのクリームも含有物を確認してから購入を決めた品を使い続けている。
 看護士という仕事柄、化粧品に含まれる成分や香料が気になるのは、患者の中には匂いに敏感だったり、触れた肌が拒否反応を見せる人も居るからだ。


「結婚式でわたしのお化粧を担当してくれる人に、あなたの分も頼んだの」

「……まだ行かせて貰う、とは言ってないけど」

「いいの、いいの。
 少し早めに来て貰う事になるけど、許してね。
 着替えだってあるし、忙しないのは仕方ないなって諦めてね」


 綺麗に薄めの紅を塗られたシェリーの唇からは、次々と思いもよらない言葉が続く。


 いいの、いいの?
 シェリーって、こんな感じのひとだった?
 シェリーの結婚式で、化粧と着替え?