「ブーケに使うお花の最終確認にね、お花屋さんへ行ってたの。
 こんなところで会えるなんて、幸運だったわ。
 今日の夕方にでもマーティンと南区に行って、あなたを捕まえようと思っていたから」


 シェリーは商店街の手芸屋のお嬢さんだ。
 結婚する時、花嫁のブーケは自分で作るのだと学生の頃から言っていた。
 実家の商売柄、刺繍や縫い物が得意で、店から売れ残りの布や糸を寄付して貰い、孤児の少女達に縫い物を美しく仕上げるコツを教えていた。
 そんな親切で優しいいつものシェリーの笑顔だが、不穏な事を言われて、リゼルは不安にかられた。


 わたしを捕まえようと思っていたから? 
 治療院の帰りに?
 今週末には結婚式があるのに?
 花婿のマーティンと?


 リデルの不安が顔に出ていたのだろう。
 シェリーの微笑みが深くなる。


「こちらの都合でのお願いだから、マーティンも一緒に行って、リデルに頼んであげる、って。
 あのね、すごく困った事態になっちゃったの」


 困った事態になっちゃったの、と笑顔のシェリーは。
 同様にリデルを困らせる事態に引きずり込もうとしている。


 おごるからと言われて、買った食材を抱えたまま。
 リデルは市場近くのカフェに連れ込まれた。