テリオスからの連絡を待たずに、自分の都合でシェイマスヘ来た事は、彼から利用されると思い込んだジェレマイアの頭から抜けていた。

 
「いや、味方になってくれと説得はしなくていい。
 ただ向こうに付いても、旨味は無いと話してくれればいいんだ」

「……もう長々と説明や解説は要らない。
 俺はこれから出ます。
 貴方の命じた通り、グーレンバイツの商会へ行き、第1王子側に付いても旨味は無いと説明しましょう。
 その代わり、彼女を人質にするのだけは許さない」

「……」


 声は抑えても。
 信じて裏切られた怒りは隠せない。
 テリオスは、そのジェレマイアの声の中に、一抹の悲しみも感じ取って。
 ……彼は他人の機微に敏感な男だったから。


「待てマイア、お前は誤解してる。
 俺の話の進め方が悪かったのだろうが、お前の弱みを握りたくて、彼女の名前を出したんじゃない。
 元々はお前から借りた本に挟まっていたメモに、練習していた彼女の名前が書いてあって。
 何語か調べたら、グーレンバイツ帝国語で女性の名前だったから、その時は面白いと」

「……」