ベアトリスの語った今後の展望は、彼女だけの意向だ。
 夫になるジェレマイアの意志は入っていない。
 このひとの中では、わたしは夫が戯れに手を付けた使用人と同じ感覚で。
 それを譲歩と言いきるベアトリスの尊大さが、リデルには理解出来ない。
 それでも、貴族階級の令嬢が話をしている間は、黙って聞いているしかない。
 それが、この階級社会の現実だから。


「……喜ぶと思っていたのに、何様なの? 愛人じゃ満足出来ない?
 わたくしがここまで来たのに、騙せると思わないことね?
 リデルの事は、子供の頃から最近まで調べがついてるの。
 どうせ、ふたりで結婚出来ないなら逃げるつもりで、あの方が先に出て行って、ほとぼりが冷めたら、合流するんでしょう?」

 リデルは頭を下げさせられたままで、また変わって名前を呼び捨てにしてきたベアトリスの物言いを聞いた。
 最初に彼女を見た時の第一印象は、好感の持てるタイプだったが、多分それはジェレマイアを思い出させる容姿だったからだ。


「わたくしが認めて許す、と言っているのだから、あの男を呼び戻せばいいじゃないの。
 お前だって、あの男とふたりじゃ苦労するだけ。
 人の挨拶に返事もしない、人の顔もちゃんと見ない、生まれながらに人を見下しているあの男が、この家を捨てて平民になる?
 笑わせないで」