まぁ、ややこしくも華麗なる王族達の争いには、たかが地方伯爵家の俺は関係無いから、勝手にやってろ、とそれ以上は想像することも止めたジェレマイアに、テリオスは見慣れた柔和な作り笑いを見せた。


「なぁ、マイア。
 あれの次の狙いは俺だと皆は期待しているだろうが、お前も1枚噛まないか?」

「……内容によっては、検討させていただきますが」



 皆の前では私と言うテリオスは、ジェレマイアの前では俺と言う。
 相手によって装う親密さを変える彼がまるで透明な鎧をまとっているようで、ジェレマイアはテリオスには心を許せない。


「検討ねぇ……お前には前々から冷めたところがあるとは分かっていたけれど、夏休み明けに戻ってきてからは、ほとんど投げやりになっているだろ。
 イングラムで何かあったのか?」

「……」

 

 リデルの事を、テリオスにも誰にも話した事はない。

 ましてや今回の帰省で聞かされた、彼女と親しくしている男の話など、未だにジェレマイアの中では処理出来ていないのに、物のついでのように聞かれても……


 なのに、こちらを見透かすようなことを言って揺さぶりをかけて、白々しく相談をするかのように見せかけて。
 己の計画にジェレマイアを引き込む事を、テリオスは決めている。


 だが例え命じられても、自分ひとりが負ける手札を引かされるのは業腹なジェレマイアは、「内容によっては」と答えたが、よくよく考えてから返事をする事にした。


 そして勿論テリオスからの領地で何かあったのか、の問いに答える気は、さらさら無い。