「ここを出ていくと、王都に居た頃から決めていて、連絡を待っている状態だった。
 だが縁談が決まれば、監視の目が厳しくなる。
 それで、その前に動く事にした」


 ジェレマイアは、今夜このまま、ひとりでイングラムを出ていく、とふたりに打ち明けた。
 リデルは、いつかは彼と出ていく、と思っていたが。
 今夜彼がひとりで出ていく、とは思っていなかった。


「リィ、俺が迎えに来るまで、待っていて欲しい。
 あの男は、3年おとなしくしていれば、君を愛人にするのを許すと言った。
 結婚の約束をした事までは把握していないが、俺の気持ちを知っているから、それを餌にしようとした。
 だから、俺の出奔にはリィは無関係だと思わせたい。
 俺が消えても、君がこれまでと変わり無く過ごしていてくれたら、俺の片想いだったで済むから、もし呼び出されても、そう合わせてくれないか。
 君に失恋したショックで家を出た男になる。
 そうすれば、他の人達に迷惑を掛けずに済む」


 前は男爵令嬢に夢中になって、全てを失くした男。
 今度は平民の娘にふられて、全てを捨てた男。
 ジェレマイアは、どれだけ自分を貶めるのか。 


 何もかもひとりで決めて、相談もしてくれなかった。
 ジェレマイアにぶつけようとしたその言葉を、リデルは飲み込んだ。