今の俺の状態は周囲から見れば、凋落と呼ばれるものなのかもしれない、と彼は思った。

 しかし、彼本人はそう思っていなかった。
 反対に、良い方向に舵を切れた、と思っているくらいだ。
 決して、ヤラカシてしまった事を後悔していない。


 
 彼……ジェレマイア・コート・イングラム。


 考えに考えた末の選択が、自分が人々から軽蔑され、嗤われ、貶められ、哀れられている現状を招いているのだが。


 ジェレマイアは、ミネルヴァに誘惑されて全てを失った事を、後悔していない。
 


  ◇◇◇



 貴族学院高等部の最終学年が始まった。

 後は適当に定期試験を受け、教師の指導通りに行動し、何も問題を起こさずに来年6月頭の卒業を迎えれば、この国の貴族の資格を手に出来る。
 そのはずだった。



 去年からその風はあちらこちらで吹いていたようだが、とうとう春先からジェレマイアの身近な所で、小さな竜巻が発生するようになった。


 元平民の男爵令嬢ミネルヴァ・ロバーツ。
 恵まれた環境で美しく整えられた女生徒達の中でも、ひと際目を引くその美貌。
 陽光を受けてキラキラと光る金髪と。
 それ以上に輝く淡いブルーの瞳。


 彼女の瞳はいつも何かを探しているようで、意味ありげで落ち着きが無かったが、それが魅力なんだとばかりに
「貴族令嬢らしからぬ危うさに目が離せなくなる」と愛おしそうに話していたのは、第2王子の取り巻きの中で1番最初に彼女に堕ちた侯爵家の次男だったか。

 ミネルヴァから目が離せない、と珍しく熱く語った武骨で無口な彼は。
 婿入りするはずだった辺境伯家に婚約を破棄されてから目が覚めて、自ら勘当を願い出て平民となり、退学して他国へ渡った。