ところが2時間近く経っても、リデルはまだ帰らない。
 最後にもう1度、ポケットから時計を取り出し、現在時間を確認する。

 まずエラの家を訪ね、リデルを連れ帰るつもりだ。
 ……ケール家でないのなら、貸馬車屋へ行く。
 リデルを乗せた馭者と馬車が戻っているかの確認をして、それでも見つからなければ、そのまま騎士団長の家に駆け込むしかない。


 最初に捜索するのは、やはりライナー商会で……と次々に頭の中の想像は不穏さを帯びていき。
 家の扉を怒りと不安に任せて音高く閉めた時、家の前に1台の馬車が停まった。


 時刻は、夕闇が辺りを覆い始めた頃。
 全てはぼやけていく昼と夜の狭間。

 
 馬車から降りてくる彼の娘と、その手を取るフード付きのマントを羽織る馭者と。
 ふたりの姿をデイヴの青い瞳がとらえる。


 デイヴは治療士だ。

 人の身体を診るのが専門だ。

 よって本邸関係者なら、その体つきを見れば誰なのか、大体分かる。



 娘の手を取り、下ろすと。
 そのまま走り去った馬車を御していた、あの男が誰なのか。
 家に入ろうともせず、娘がいつまでも見送っているのは誰なのか。


 デイヴには、分かってしまった。