後はケールを降ろしたら、リデルを送って、そのまま帰る。
 それで完了だったのに、扉を閉める前にケールがクラーク・ライナーの名前を出して罵っているのが聞こえ、あの男がリデルに許しがたい真似をしたのが分かり。
 身体は馬車を御しながらも、頭の中ではライナーに対しての怒りが治まらない。
 
 

 一昨年の夏、帰省中にリデルに近付く男の存在を知って、リーブスに調べさせた。


「父親は何度も旦那様に面談の申請を出しています。
 その度に却下をされても諦めないのは、新興のライナー商会は本邸の御用達の看板で、箔が欲しいのでしょう。
 息子の方は、特に可もなく不可もなく、と言ったところでしょうか。
 女性との関係は、まぁそれなりに」


 まぁそれなりに、って何だ、はっきり言え、とリーブスに詰め寄れば。
「あくまで私的見解を申し上げますと、私の身内には薦めたくはありません」と慇懃に言う。
 あまり良くない女と交際していた過去があるらしい。


 ライナーの父親は、ご領主様には簡単には会えないから、医療部のデイヴに目を付けたか。
 息子がリデルにちょっかいを掛けているのは、父親の差し金なんだろうか。
 それとも、そんな大人の事情には関係なく、それなりな奴がリデルに対して時間を掛けているのは、真剣だからか。


 ジェレマイアはクラーク・ライナーを様子見する、と決めた。 
 来年、俺が卒業して戻ってきた時、もしリデルとこいつの仲が進んでいて。
 もし彼女が幸せそうなら諦めて、黙ってイングラムから立ち去ろうと思っていた。