まさか今日、リデルがここまで来てくれるとは思わなかった。
 ただ、彼女の姿を見ることだけで満足だった。

 馭者として、普通にリデルを家まで送る。
 彼女を迎え入れたデイヴに、肩を抱かれて家に入る彼女を見届けたら、それで気付かれることなく……と。
 ただそれだけでも、満足だったのに。 



  ◇◇◇
 


 約束した時間になっても出てこないリデルが心配になって、ケールを迎えに行かせた。
 招待客ではないが、新郎新婦の同級生であるケールなら最悪、会場まで顔出ししても、不審者扱いはされないだろうから。
 ケールも遅刻など絶対にしない彼女が先に来ていない事が不安だったようで、ホールに向かって駆け出した。


 ふたりを待っている間、ここに居るしかない自分が歯痒くて、苛々した。
 今の自分の状況や領内での評判など予想して、覚悟して、テリオスと事を起こしたはずが。
 
 いざリデルの身に何かあっても、先ずはその報告を受けてからしか動けない自分。
 直接は何も出来ない自分、それが歯痒かった。


 それから暫くして、ケールがリデルを伴ってホールから出て来たので、詰めていた息を吐き。
 ふたりが笑顔であることに安心して。
 一層深くフードを被り直して、馬車に乗り込むリデルに手を差し出した。

 彼女は無言のジェレマイアに手を預けて、軽く頭を下げ
「お待たせしました。ありがとうございます」と労ってくれたが、彼に気付かず。
 それにホッとしたようで……残念な気持ちになったのは確かで。