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 本邸へと走る馬車の中で、自分がこれからしようとしている事に、リデルは罪悪感を覚えていた。

 帰る時間は大丈夫か、と馬車に乗る前に確認されて、頷いたけれど。
 エラと約束した迎えの時間を横で聞いていたデイヴが、リデルの帰宅が遅くなれば心配するだろうとは、想像がつく。 

 しかし、今のリデルは気持ちを通わせたジェレマイアと離れ難くて、彼に付いていくと決めた。

 嘘をつくので父には申し訳ないが、エラと話し込んでいた事にすれば、多少遅くなっても誤魔化せると思った。
 エラも聞かれたら、合わせてくれるだろう、と都合よく考えた。


 自分では自覚していなかったが、クラークと交際していた半年間では、時間が来たら、さっさと切り上げて帰っていた。
 どんなにクラークに引き留められても、彼とまだ一緒に居たいからとか、離れがたいからとか。
 それが理由で、デイヴに嘘をついた事もない。
 

 そんな感じだったから、クラークに言わせれば『可愛げがない』リデルが、ジェレマイアになら。
 デイヴに嘘をついてまで。
 エラに嘘をつかせてまで。
 一緒に居たい、と思ってしまう。 


 今じゃなければ、彼に聞けない事もある。
 今じゃないと、わたしが言えない事もある。
 このタイミングを逃したくない。

 
 これからでも、ジェレマイアに帰ると言えば、黙って彼は送り届けてくれる。 
 けれど。
 引き留められなくても、離れたくないと思い。
 強制されなくても、自ら嘘もつく。
 

 恋は人を愚か者にしてしまい、そうなることを躊躇わせない、と。
 リデルは初めて知った。