せっかく大好きな乙女ゲー世界に転生したので、聖地巡礼と美味しいご飯を楽しみます!

 王都までの旅はその後も恙無く進み、見込み通り2週間ほどで到着できた。単純計算で歩きの3分の2ぐらいの期間かな? 積荷もあったし、乗り合い馬車と同じくらいというところか。サラコールの通行証だったからか、下手すると何日もかかる入口の検問もするっと通れてしまったので有り難い。

「それじゃ、お父さんとお兄ちゃん頑張ってね!」
「終わったら食堂の方に寄るからな」
「うん!」

 サラコール商会の隣の建物に商談などできる場所があり、そこで納品のチェックをして、お父さんたちは他にも何か話すことがあるらしい。私はもう手伝えることがないので、門を入ったところで下ろしてもらった。

「ティルキさん、ハルクさんも、道中ありがとうございました!」
「こちらこそ、お嬢ちゃんの飯が美味くて助かったよ」

 二人とも握手を交わして、お店のあるメイン通りに向かう馬車を見送った。
 建国祭はもう来月だし、そろそろおかみさんたちも帰ってきてるかもしれない。一応途中で食堂宛に手紙は送っておいたけれど、はてさて。

 帰ってきたのがちょうど食堂に近い門だったのは嬉しい。お店の前には、ふむ、看板は出ていない。ということはまだなのかな? お店の中を覗くとおかみさんが掃除をしていた。おかみさんは私に気がついて、にかっと笑ってくれた。

「おかえり、アイリーン!」
「……ただいま戻りました!」

 ああ、帰るところがあるっていいなあ。ただいま王都!



 おかみさんたちもちょうど昨日帰ってきたところのようで、ピッタリのタイミングだったな。そして気がかりだった娘さんは、なんとお腹の中に赤ちゃんがいるらしい! なるほど体調不良はつわりだったわけだ。おかみさんとだんなさんの笑顔に、おめでたい話でよかったなと思う。
 仕入れや仕込みがあるから、食堂は明後日から開ける予定だ。そして、それまでに建国祭でのピタサンド新作をしっかり考えよう、ということになった。
 
 今回は特に、提供が楽である、というのが大事なところかもしれない。種類はそれなりに欲しいけれど、お客さんをなるべく待たせないものという方向性だ。
 普段定番で出している肉野菜炒めは、まとめて炒めるから肉と野菜の挟む比率とかいちいち面倒だな、ということになって、肉は揚げ鶏にして別で仕込んだザワークラウトを添えることにした。コロッケは仕込みの工程が多くなってしまうし、揚げたてじゃないと美味しくないので今回は見送り。
 デーツジャムはもちろんメニューに入れるけど、他にも甘いサンドが欲しいなぁ。バナナとかどうだろう。そのままじゃなくて炒めれば甘さも増すしいいかもしれない。

「ほら、あまり根を詰めないでご飯にしましょうよ」

 だんなさんと机や椅子を拭き上げながらメニューを考えていると、おかみさんが声をかけてくれた。いつの間にかすっかり夜だ。

「お、モロヘイヤスープか」
「疲れているときは温かいものがいいからね」

 食堂の料理は基本だんなさんが作っているけれど、おかみさんの作るものも美味しい。このスープはだんなさんの好物なので何度も食べて私も大好きだ。いただきます!
 とろみのあるミルクスープはまだ熱くて、ほんのりスパイスとにんにくの風味がじんわりと身体を温める。ミルク色にモロヘイヤの緑が鮮やかで見た目も綺麗。今日は餃子みたいなやつ……このあたりではマントゥと呼ぶ、小麦粉をねった皮に肉を包んだやつも入っている。皮がもちもち!
 ……これ、ピタに挟んだら美味しいかな?!

「マントゥをかい?」

 ビビッときた、と思ったら、また声に出ていたらしい。

「この美味しいスープを挟むのは難しいので、具のこれはいけるかなぁ、と」

 ふむ、とだんなさんが早速焼いておいたピタにマントゥをいくつか挟んでかじった。

「これは面白いな!」

 だんなさんはおかみさんと私にもピタを渡してくれた。早速挟んでかじってみると、もちっとした皮と肉感が美味しい。

「挟むならべちゃべちゃしないように少し揚げるか焼くかしたほうがいいんじゃないかい?」
「そうだな、大きさももっと大きめがいい」

 マントゥを焼く……せっかくだから小籠包みたいにスープが出てくるようにできたらと思ったけど、自分で作ったことはないからよくわからない。熱くなくてもスープが飛び出すのは食べるときも大変そうかもしれないな。このミルクスープっぽさを出すために……そうだ、チーズを入れるのがいいかも!

 食堂も再開して、商談が終わったお父さんとお兄ちゃんは宣言通り寄っていってくれた。せっかくだからと建国祭用のピタサンドを試食してもらって、そこからまた試作を重ねた。
 最終的にピタの具は揚げ鶏、モロヘイヤ入り焼きマントゥ、焼きバナナ、デーツジャム、それに添え物用のザワークラウトとチーズ。チーズは塩分少なめのものにして、どの具でもお客さんのお好みで足せるようにした。

 お父さんは帰ったけれど、お兄ちゃんは建国祭を見物していくことになったらしい。私が最初お世話になる予定だった両親のお友達の家に泊まるようで、王都滞在中はちょこちょこ食べに来ると約束してくれた。
 建国祭まではもう二週間ない。あと少し、しっかり準備を進めよう!