「それがほんとうに君の望みなら」

「……代わりに、わたしは何を渡すんですか」

「おや、君は見かけによらず、意外とかしこい子なんだね」

 そう言った鳥居先輩は、ほんとうに驚いたような顔をしていた。

 失礼な人だな、と思ってちょっとだけムッとする。

「たしかに代償は必要だ。だけどそれは、願いがかなえられる瞬間に決まる。だから、今は僕にもわからない」

「いのち、とかじゃないですよね?」

「いのち、……だったとしたら君はその願いをあきらめる、ということかな?」
 鳥居先輩が、いじわるく笑う。


 それから鳥居先輩は、指先を五円玉から外した。

 そして、その指でわたしをまっすぐに指さす。


「友達を助けたいと思ってここまで来たけど、自分のいのちがかかるなら、助けるのはやめておこうってことか。その友達は君にとって、命よりは安い存在。だけど簡単な代償でどうにかなるなら助けたい。なんて偽善的なんだ」

「ちっ、ちがうっ、そういうことじゃ……!」

「じゃあ、どういうことだ?」
 鳥居先輩はどこか勝ちほこったような、わたしのことを馬鹿にしているような笑みを浮かべる。

「知っているか? 偽善の『偽』は、ニセモノ、って意味だ。だけどそれは『人の為』って書くんだよ。つまり、人の為にいいことをしようとしても、それはニセモノってことだ。実に皮肉だな。だが、この言葉を考えた人はほんとうに人間をよくわかっている」

 カァッ、と顔が赤くなる。