「さて、それじゃあ契約をしよう」

「契約?」

「さっき君は、僕のことをきれいだと思っただろう?」

「えっ」
 ドキリ、と心臓が鳴った。

「君の考えていることくらい、わかるよ。赤子の手をひねる、なんてそんなひどいことを僕はしないけれど、君の考えをあてるのは、赤子の手をひねるくらい僕には簡単なことだ」
 鳥居先輩はそう言って、五円玉の上に人差し指をのせた。

「わたしの心の声が聞こえてる、ってことですか?」

「いいや、考えていることが手に取るようにわかる、ということだ」

 ……それって、何がちがうんだろう。

 わたしの言葉を否定した鳥居先輩は、いたって真面目な顔をしている。

 真面目な顔で、五円玉に指をのせてこちらを見ている。

「それに、この学校の中でああいうものが動き出すと、どうにも居心地が悪くてね。気がつかないわけにはいかないというか。こちらとしても早くどうにかしてしまいたいんだ」
 鳥居先輩が、ひとり言のように小さな声でそう言う。

「あの……け、契約って何ですか」

「そう、契約。契約ね。つまりそれは、言葉なんだよ。君がどうしてここにいるのか、なんて、僕にはとっくにわかっている。だけど、それでも、僕が君の願いを聞くためには契約が必要だ。言霊(ことだま)による、契約が」

「こと、だま」

「言葉は、ちからを――霊力を持っている。だから、願いは君の口から、僕に届けられなければいけない」
 また、鳥居先輩がにっこりと笑った。

「……契約、したら、友達を助けてくれるんですか」

 契約。
 まるで、映画や漫画に出てくる悪魔か何かみたいだ、と思ったけど、わたしはその考えを口には出さず、一歩、ベッドへ近づいた。