鳥居先輩は嘘をつかない


(だって、クラスのみんなも、先生も、わたし以外誰も、春海ちゃんが変わったってことに気づいてないのに……)

 神楽木先生の、きれいで、だけどちょっといじわるっぽい笑顔が頭に浮かんだ。

(……こういうのなんて言うんだっけ。猫の手も借りたい? ちがう。……あ、わらにもすがる?)

 たとえそれがわらだろうが、掴んでみないとわからない。

 自分にやれることは、そこに可能性があるなら、ぜんぶやろう。

 そう思って、お昼休みのうちに十円玉を、担任の先生にお願いして五円玉二枚にかえてもらった。

 何かあったらこれで学校の電話からおうちに電話するのよ、とおかあさんがランドセルに入れてくれている十円玉だった。

「何をするんだ?」
 と、先生はすごく不思議そうにしていたけど、「なんでもないです」と苦笑いでごまかした。

 ……ごまかせたかは正直わからないけど、先生はそれ以上何も聞かれなかったので助かった。


 そして、放課後。

 わたしは、紙に書いた鳥居と五円玉を一枚にぎりしめて、保健室の前に立っていた。

(神楽木先生、いないといいんだけど……)

 保健室の扉に耳をあてて、中の様子をうかがう。中からは何の音もしなかった。

 そっと、扉に手をかける。

「……失礼します」
 小さな声でそう言って、おそるおそる中へ入った。

 誰もいない保健室に、1人で、しかも無断で入るのは、なんだかドキドキする。

 扉を閉めて、そこにランドセルを下ろした。

 赤っぽいピンク色のランドセルにつけられた、小さな鈴の形をしたお守りが、チリリン、とゆれる。