鳥居先輩は嘘をつかない



「……は、春海ちゃん、ねえ、これって……」


「も、もう、やめてってば! つむぎちゃんが動かしてるんでしょ!?」


「ちがうよ! わたしはちから入れてないのに、十円玉が勝手に動くんだってば!」


「嘘! そんなのあり得ないじゃない! じゃあ証明してみせてよ!」


「そ、そんなこと言ったって……」



 証明して、といわれてもわたしにはどうすることもできなかった。

 だって、もう春海ちゃんの指は十円玉から離れてしまっているし……。



「ほら、証明できないじゃない。いいから帰ろうよ、暗くなってきたし」


「じゃ、じゃあもう一度春海ちゃんも指をのせてみるとか……」


「もういいって!」



 春海ちゃんが、叫ぶようにそう言った。



「やめてよ、こっくりさんなんて馬鹿げてるって言ってるの!」



 春海ちゃんの声が、教室に響いた。



「……あたし、帰るから!」


「ま、待って、春海ちゃん!」



 十円玉から指を動かさないまま、声だけで春海ちゃんの背中を追う。

 だけど、春海ちゃんはそんなわたしの声なんて聞こえていないみたいに廊下へと出ていってしまった。



 パタパタと廊下を走る音が、遠くなっていく。



(こ、これ、どうしよう……)



 教室に残されたのはわたしだけ。


 指の下にある十円玉は、相変わらず熱を持っているようで気味が悪い。



(と、とにかくこっくりさんには帰ってもらおう……)



 香苗ちゃんに聞いたやり方でこっくりさんを終わらせようと、姿勢を正して紙にむきなおった。


 すぅ、と息を吸い込む。



「……こっくりさん、こっくりさん、おかえりください」



 十円玉は、動かない。


 さっき止まった「いいえ」の文字の上でじっと動かずにいる。



「こっくりさん、こっくりさん、おかえりください……!」



 もう一度、頭を下げながらそう言ってみるけど、やっぱり十円玉は動かなかった。


 だけどそれでも、わたしは十円玉から指を離せない。


 こわくて。指先から、何かの意志を感じるようで、こわくて。