鳥居先輩は嘘をつかない



 誰もいない放課後の教室。


 真っ白な紙に、鳥居の絵、「はい」、「いいえ」の文字、数字、五十音を書いて、その上に十円玉を置いた。



「……こっくりさん、こっくりさん、おいでください。もし、おいでになられたら、『はい』へ、お進みください」



 2人で声をそろえて、そう唱えた。


 その瞬間、静まり返っている放課後の教室の空気が、突然ひんやりと冷えたような気がした。


 だけど、何度そう唱えても結局十円玉が動くことはなくて……。



「なんだ、全然動かないね」


「あっ……!」



 春海ちゃんが、手を離してしまった。



「ま、待って、春海ちゃん、手を離しちゃ――」



 突然、指先の十円玉が、カタカタと動き出した。



「えっ!?」



 すべるように紙の上を動いて、「はい」のところへ十円玉が進んでいく。



「は、春海ちゃん」


「……もう、やだなぁつむぎちゃん、あたしをおどかそうとして自分で動かしたんでしょ」



 笑いながらそう言う春海ちゃんは、机の上に置いていたランドセルを背負って、肩の部分をぎゅっと掴む。



「ち、ちがうよっ! そんなことしてない!」


「もういいから、帰ろう? こっくりさんなんて嘘ってわかったんだし」


「で、でもっ……!」



 指を、離すのがこわかった。



「こっくりさんは途中で指を離したらだめだって、香苗ちゃんが……!」


「別にあたしは手を離したけど何も起こらなかったじゃない。そんなの嘘なんだって」


「そう、かもしれないけど……」



 指先をのせている、十円玉をじっと見た。――動かない。



「……だ、大丈夫、かな」


「大丈夫だって。じゃあさ、こっくりさんに聞いてみれば? こっくりさんなんて嘘ですよね? って」


「えっ……!?」



 春海ちゃんがそう言うと、わたしの指の下にある十円玉が、また勝手に動き出す。


 さっきよりもゆっくり、ノロノロと動いた。


 なんだか怒っているみたいに、十円玉が熱くなっていく気がした。



 そして、十円玉は「いいえ」の上で止まった。