鳥居先輩は嘘をつかない



「まあ、君はちゃんと僕のことを敬ってくれているから、そういうのは嫌いじゃない」



 鳥居先輩が、ふふ、と少しだけ柔らかく笑う。



(ほ、ほめられた? のかな……?)


 よくわからないな、と思っていると、



「さあ、契約だ」


 と鳥居先輩が手のひらの上に鳥居の描かれた紙を置いて、その上に五円玉を重ねた。



「指をのせて」


「は、はい」



 鳥居先輩とわたしの、右手の人差し指が五円玉にのせられる。



(なんかこれ……)



 わたしは、少し前に見たばかりのあの光景を思い出す。



(ううん、ちがう。あれは五円玉じゃなかったし、それに、鳥居先輩は……)



 顔を上げると、鳥居先輩がまっすぐにわたしを見ていた。



「君、名前は?」


「あ、えっと、福吉つむぎ、です」


「――『福吉つむぎ』――」



 鳥居先輩がわたしの名前を言うと、鳥居先輩の持っていた鳥居の描かれた紙が、突然光り始めた。



「えっ……!?」



 下から、風が吹いている。


 わたしたちの周りにある茂みが、ばさばさと音を立ててゆれている。


 驚いているわたしを見て、鳥居先輩はやっぱり少しだけいじわるそうに笑っている。


 それから、わたしたちが指をのせている五円玉と紙を、支えているはずの左手を、鳥居先輩がそっと離した。


 下から吹いている強い風にあおられて、紙も五円玉も宙に浮いているみたいに見える。



「さあ、福吉つむぎ。君の願いを聞こう」


「あっ、わ、わたしの願いは――」



 鳥居先輩の長い前髪が風に吹かれて、その白い顔がはっきりと見える。


 少しだけとんがった目と、きれいな鼻。薄い唇が、三日月みたいにきれいな弧(こ)を描いている。


 瞳の灰色に吸い込まれそう。それに、なんだか、瞳の奥が光っているように見える。


 ごくり、とつばを飲んだ。


 わたしは、もしかしたらほんとうに、悪魔か何かと契約しようとしているのかもしれない。


 それでも……。



(それでもいい。わたしは、春海ちゃんを、助ける……!)



 大きく息を吸い込んで、



「わたしの友達の、鈴村春海ちゃんを、『こっくりさん』の呪いから救ってください!」



 思い切り、叫ぶようにそう言った。