「……きっと、あれのせいだ」
「あれって?」
ひとり言のつもりだったのに、わたしの隣にはいつの間にか、保健医の神楽木先生が立っていた。
「わっ、か、神楽木先生っ」
「どうしたの、福吉つむぎさん? おばけでも見たような顔をして」
びっくりしたわたしを見て、神楽木先生はにっこりと笑った。
とってもきれいで、だけどちょっとだけいじわるそうな笑い方で、わたしはなんとなくムッとしてしまう。
「なんでもないです。さようなら、先生」
「まあまあ、そう急がなくてもいいじゃないの」
「……先生、どうしてついてくるんですか? 保健室はあっちですよ」
「福吉つむぎさんに、ちょっと聞きたいことがあってね」
靴箱の方へむかって早歩きするわたしの横を、先生はスカートからのびる長い足でゆったりと歩いてついてくる。
「鳥居先輩の噂、知ってる?」
「トリイ、先輩? って誰ですか?」
「そう……じゃあ、もうひとつ」
さっきまで笑っていた神楽木先生が、突然真面目な表情になって、わたしの耳に顔を近づけた。
「鈴村春海さんは、何をしたの?」
「えっ」
思わず、足を止める。先生も、わたしが止まるとすぐに足を止めた。
もう少しで靴箱というところ。いろんな学年の生徒の、小さかったり大きかったりする足音が、そこら中に響いている。
「何、って……」
「何かに、何か、よくないことをしたんでしょう?」
「……なんでそんなことがわかるんですか?」
また笑われるような気がしたけど、先生はいたって真面目な顔で、
「鳥居先輩なら、きっとなんとかしてくれるよ」と言った。
「……トリイ、先輩」
「じゃあね、福吉つむぎさん。気を付けて帰ってね」
「……さようなら、先生」
先生は今度こそ、にっこりと笑った。
