鳥居先輩は嘘をつかない



(茂みって、ここだよね……?)


 先生たちの車が止めてある横に、校門がある。

 わたしたちは使わない校門で、授業時間はしっかりと鍵がかかっている。今は、その鍵はされていなかった。

 その隣に、わたしよりも背の高い草木が生い茂った場所がある。

 気にしたこともなかったけど、他の木や花はきれいに手入れされているのに、そこはなんだか寝起きの頭みたいにボサボサだった。



「……」


 手のひらを開く。

 紙と五円玉は、強くにぎっていたせいですごくあたたかくなっている。


 わたしはそれをにぎり直して、茂みをかき分けるように前へ前へと進んだ。


「わぁ……」


 茂みが円形に開けたところへ出た。

 上を見上げると、茂みの上の方も丸く開かれていて、そこからオレンジ色の柔らかい光が差し込んでくる。


(茂みを、上から大きなクッキーの型でくり抜いたみたい……)


 視線を下ろす。と、目の前には香苗ちゃんの言っていた膝丈くらいの鳥居と、祠、そして、


「え、猫?」


 小さな、黒い猫がいた。


(あれ? なんか尻尾が……)


 尻尾に違和感があって、それをじっと目で追いながら、わたしは猫にもう一歩近よる。


 わたしが一歩をふみだすのと、その猫がわたしの横を通り過ぎて走っていってしまうのと、たぶん同時くらいだったと思う。


「あっ、待って!」


 わたしの横を走り去っていく猫を視線で追って、後ろを振り返る。




「……やぁ、また会ったね」



 そこには、昨日とまったく同じ格好をした鳥居先輩が、やっぱり大人みたいな笑顔を浮かべて立っていた。