保健室を出て、教室へむかう。


「ねえ、神楽木先生見なかった?」

「え、ううん。保健室じゃないの?」


 教室にも、靴箱にも、神楽木先生はいなかったし、神楽木先生を見た人もいなかった。


(他に神楽木先生がいそうな場所……あっ、職員室!)


 職員室へむかうと、ちょうど職員室から香苗ちゃんが出てきたところだった。


「香苗ちゃん!」

「あ、つむぎちゃん、どうしたの?」

「あの、中に神楽木先生いなかった?」

「え、いなかったけど。どうしたの? 具合悪いの?」



 心配そうにわたしのことを見る香苗ちゃんに、首を左右に振ってこたえる。

 走ってきたから、息が上がってうまくしゃべれない。肩で息を整えていると、





『……つむ……ちゃん』




「え?」


 どこかからわたしの名前を呼ぶ声が聞こえた気がして、顔を上げる。


「香苗ちゃん、何か言った?」

「ううん、何も。……つむぎちゃん、大丈夫? 最近なんか……元気ないし」

「うん、大丈夫、ありがとう」


 周りを見る。やっぱり香苗ちゃん以外には誰もいない。



(気のせい、か)


 わたしは、もう一度息を大きく吸って呼吸を整えてから、香苗ちゃんに声をかけた。