「……どうしよう」


 もう、他に方法がわからない。

 先生やクラスの友達に相談しても、みんな春海ちゃんがおかしくなってることに気がついてないから、わたしがいくら説明してもわかってくれなかった。


 おかしくなってるって気がついてる様子の神楽木先生も、よくわからないヒントをくれるばかりで答えを教えてはくれない。

 それに――



『……これ以上じゃまをしようとするなら、いのちはないと思え』



 お腹の底に響く、地面をゆらしているような低い声。

 思い出して、からだがぶるっと震えた。

 あれはもう、わたし1人のちからでなんとかできるものじゃない。


「どこにいるの、鳥居先輩……」


 もう一度、ベッドの方を見る。すると、


「あれ……?」


 さっきまでそこになかったはずの、鳥居の描かれた紙と、五円玉がベッドの上にあった。


「……これって」


 さっきわたしが描いたものじゃない。それはまだ、わたしの手のひらの中にあるから。


(でも、なんかこれ、見覚えがある)


 ベッドの上にあった紙に触れる。しわしわになっているそれは、わたしが昨日、鳥居先輩に渡したものだった。


「……鳥居先輩!」



 やっぱり、鳥居先輩はいる。



 他のベッドの中、ロッカーの中、窓際のカーテンの中。


 人がかくれられそうなところはすべて開けてみたけど、鳥居先輩はどこにもいなかった。



(……神楽木先生なら、何か知ってるかもしれない)


 床で開いていたランドセルを閉じて、背負う。手の中には紙と五円玉を掴んだままで、わたしは保健室を飛び出した。