「鳥居先輩!」


 保健室の扉を開ける。

 中には誰もいなくて、シン、とした冷たい空気がただよっている。

 わたしはその空気を割るように、ずんずんと奥へ進み、鳥居先輩がいるはずのベッドへとむかった。
(昨日はそのベッドにはいなかったけど)

 シャア、って音を立てながら、勢いよくカーテンを開く。


「……いない」


 鳥居先輩は、いなかった。


「……あっ、そうだ!」


 背負っていたランドセルを床に置いて、広げる。

 いつもなら十円玉が入っている小さなポケットに、今は、昨日使った五円玉の残りが1枚入っていた。

(これと……)

 ランドセルの中に入っているノートを1冊、てきとうにひっぱりだして、ビリビリとページをやぶった。


「……うーん、一応、きれいにしておこう」


 少ししわになってしまった紙を、昨日、鳥居先輩がしていったみたいに手のひらでのばし、赤いペンで鳥居の絵を描く。


「これで、よし」


 それをきれいに折って、五円玉と一緒にぎゅっと掴んだ。

 教室から保健室まで、ずっと早歩きで来たから、ちょっとだけ息が上がっている。

 わたしは何度か深呼吸をしてから、


「鳥居先輩、聞こえますか」


 と声をかけた。



 ベッドをまっすぐに見る。カーテンはすでに開いている。

 わたしはそこにむかってゆっくりと頭を下げた。


「お願いします、出てきてください。友達を……春海ちゃんを、助けてください。わたし、わたしにできることなら、なんだってしますっ! だからっ、お願いします!」


 頭を下げたままで、声に出してお願いする。

 ゆっくりと、顔を上げる。


「……っ」




 そこに、鳥居先輩はいなかった。


 もしかして、と思って後ろを見るけど、そこにもいない。