『……むぎちゃ……』



「えっ?」

 どこかから、春海ちゃんがわたしを呼ぶ声が聞こえた気がした。

 きょろきょろと首を回して周りを見る。

 だけどやっぱり、そこに春海ちゃんはいない。


(……気のせい……?)
 わたしはランドセルを背負って、廊下に出る。




『このままだとまずいってことを、福吉つむぎさんだけが気づいている、ということはわかっているよ』




 昼休み、この廊下で言われた、神楽木先生の言葉を思い出す。

 そうだ、このままじゃまずいって、わたしだけが気づいている。

 他の人は誰も、気がついてすらいない。だから、わたし以外には誰も、春海ちゃんを助けられない。


「……ニセモノじゃないって、証明してやるっ」
 わたしと、春海ちゃんの間にあるのは、ニセモノの友情じゃない。だから、


「待ってろ、鳥居先輩……!」


 わたしはランドセルをゆらしながら、早歩きで保健室へむかった。