「……ニセモノじゃないって、証明しないと」
「証明って? 何を?」
「うわぁっ、神楽木先生っ」
振りむくと、神楽木先生が立っていた。
着ている白衣の裾が、風もないのにゆれた気がして、わたしはゴシゴシと目をこする。
もう一度見たけど、もうゆれていなんていなかった。
(気のせい、か)
そんなことを思っていると、神楽木先生が、
「こんにちは、福吉つむぎさん。今日もひとり言が元気だね」
と言って微笑む。
「ひ、ひとり言だってわかってるなら返事をしないでください!」
「興味深いひとり言なもので、つい、ね」
神楽木先生はそう言って、右手をあごのあたりにあてる。
「ところで、福吉つむぎさん。鈴村春海さんは元気かな?」
神楽木先生が、わたしの顔をのぞき込むように首をかしげた。
そして、そのままの体勢で話を続ける。
「なんだか昨日よりも、顔色が悪いように思えたのだけど」
「……」
「原因はもう、わかったのかな?」
「……神楽木先生」
「何かな?」
「先生は、何を知っているんですか?」
首をかしげてわたしの顔をのぞき込んでいる先生の方を見る。
目が合うと、先生はやっぱり、ちょっとだけいじわるそうに笑った。
「……何も? ただ、このままだとまずいってことを、福吉つむぎさんだけが気づいている、ということはわかっているよ」
「……」
わたしは、春海ちゃんの消えてしまった人ごみをもう一度見つめる。
その中に春海ちゃんを見つけることはできなかった。
やっぱり、見ているだけじゃ、自分の目だけを頼りにしているんじゃ、追いかけられない。
(それなら――)
教室とは反対の方向にむかって歩き出したわたしに、
「授業に遅れないよう、気を付けてくださいね、福吉つむぎさん」
と神楽木先生が言っている気がしたけど、わたしは聞こえないふりをして歩き続けた。
