次の日。

 わたしはとりあえず、自分でできることをもう一度最初からやってみることにした。

 鳥居先輩を頼らずに、自分ひとりで春海ちゃんを助けるために。


「お、おはようっ、春海ちゃん」
 まずは朝、教室に入ってきた春海ちゃんに、大きな声であいさつをする。

 前は、ちゃんと目を見て、

「おはようつむぎちゃんっ!」

 って笑顔であいさつを返してくれていたのに。そんな明るい春海ちゃんは、やっぱりもう、ここにはいなかった。


「……おはよう」
 顔はこっちをむいているけど、春海ちゃんの目に、わたしの姿はうつっていないみたいだ。

 そう言って、春海ちゃんは自分の席へとむかう。

「……やっぱり、春海ちゃん、おかしいよ」

 おかしい。

 おとなしい、とか、物静か、とかじゃない。

 何か、おかしい。


 それなのに、みんなそれが当たり前みたいに、まるで最初から春海ちゃんがこういう子だったみたいに、何も気にしない。

 もう、春海ちゃんがおかしいのか、みんながおかしいのか、それとも自分がおかしいのか、よくわからなくなってくる。


(……弱気になっちゃ、だめ! 前の春海ちゃんに戻ってもらうんだから!)

 わたしはブンブンと頭を左右に振って、弱音を吐きそうな自分をどこかに吹き飛ばす。

 それから、休み時間も、給食の時も、お昼休みも、何度も何度も春海ちゃんに声をかけた。

 だけど、何度声をかけても、はるみちゃんがわたしのことを見てくれることはなかった。


 見てくれないし、もちろん、笑ってもくれない。

 何を考えているのか、何も考えていないのか、それすらわからないような、何もないって感じの表情をしていた。

 そして、すぅっと人ごみの中にまぎれていなくなってしまう。

 そうなると、どうしてか、わたしは春海ちゃんを見つけることすらできなかった。


「春海ちゃんって、そんなに足早かったっけ……」

 何度も何度も春海ちゃんを見失って、最初はそう思っていたけど、だんだんと、そうじゃないってことがわかってきた。


 春海ちゃんは、ほんとうに人ごみの中へと消えていってしまうのだ。