あの日から、春海ちゃんの様子がおかしい。
どこが、と言われたら、全部が、としか言いようがないくらい。
昼間は何をしていてもボーっとして、話しかけても上の空だし、放課後になるとなんだか人が変わったみたいになってしまう。
人が変わったみたいに、乱暴だったり、わがままだったり、ただただ無口だったり。その日によっておかしさの種類はちがったけど、とにかく毎日何かがおかしかった。
「春海ちゃんっ」
放課後、教室を出ようとしている春海ちゃんに声をかける。
ラベンダー色のランドセルに、ウサギのキーホルダー。
その後ろ姿は間違いなく春海ちゃんそのものなのに、なんだか、やっぱり知らない人に話しかけているような気分になる。
「……何? つむぎちゃん」
春海ちゃんが振りむく。全然、笑ってない。
感情がないみたいな表情だった。
視線は、合わない。
わたしは、ランドセルの肩の部分をぎゅっと掴む。
「あ、あのっ、……大丈夫? 最近、その、元気がないから」
「大丈夫。じゃあね」
「あっ、待って――」
春海ちゃんはわたしに背をむけると、たくさんの生徒であふれかえっている廊下へと出ていく。
そして、人ごみの中へとけるようにまざって、消えていってしまった。
「……」
どうしたんだろう。やっぱり、なんかおかしい。
だけど、
「大丈夫?」
って聞いて、
「大丈夫」
って言われてしまったら、もう、どうしたらいいのかわからない。
(でも……)
友達に何かあったのに、それが自分でわかってるのに何もしないなんて――
「いやだ」
何ができるかなんてわからないけど、それでも、何もしないのだけはいや。
(それに……)
こうなってしまった原因に、わたしは心あたりがある。
