運命みたいな恋は、ほら!すぐそこに転がっている

「私・・・男の人が怖いの」
「え?」
「ほら、危ないから前を向いて」
「ああ、ごめん」

一瞬驚いたように私を振り返った徹さんが、再び前を見てハンドルを握り直す。

「私はもともと友達が多い方でも社交的な方でもなかったの。もちろん何人かの親しい女友達はいたけれど、弟や祖母のことを考えると自分だけ遊びに行く気持ちにはなれなくていつも学校と家の往復ばかりだった。決して目立つ生活をしていたつもりも、誰かに恨みをかう覚えもなかったわ。それなのに、高校のひとつ上の先輩に付きまとわれて、無視していたら家の前で待ち伏せされて、ある日突然襲われて・・・」

当時のことを思い出して、私は唇をかみしめた。

「大丈夫だったのか?」
「ええ。私が抵抗したから先輩もすぐに離してくれたわ。でも、あんまり怖かったから学校の先生に相談したの。そうしたら、私の方がストーカーだって噂が広がって。周囲はみんな私を無視するようになったわ」

それから高校を卒業するまでの1年ほどの期間はいつも一人だった。
このことがトラウマとなり、私は男性に恐怖心を持つようになった。
だから、男性と至近距離にいることが苦手なのだ。

「そうか、怖い思いをしたんだな」

ちょうど車がマンションの駐車場に着いたタイミングで、徹さんは運転席から手を伸ばし私の背中をトントンと叩いてくれる。
その手の温かさに涙が溢れそうになり、私は徹さんの肩口に顔を埋めた。

「俺は、怖くないのか?」
「うん」

なぜだろう。徹さんには怖いという感情はわかない。
きっと徹さんは特別なのだ。
伝わってくる温もりの中で、私は緊張がほどけていくのを感じていた。