運命みたいな恋は、ほら!すぐそこに転がっている

「朝、見たんですよね」
「うん」

やっぱり。

「誰なんだ?」

怪訝そうな表情で、徹さんが聞いてきた。
私だって、ずっと秘密にしているつもりではなかったし、チャンスがあれば話そうと思っていた。ただそのタイミングがなかっただけ。
でもこうなったら、秘密にしておくことはできない。

「あの人は、母なんです」
「お母さん?」
「ええ、父が再婚した相手、要は継母です」
「だって、お母さんは…」

以前、2度目の母は父が亡くなった後に私と弟を置いて出ていたと話したから、不思議に思ったのだろう。

「父が亡くなったあと家を出ていたはずの母ですが、祖母が亡くなり、私が一人暮らしを始めた頃から時々姿を見せるようになったんです。父の実家は小さいけれど持ち家だったので、それを処分して私がまとまったお金を相続したと思っているのでしょう。実際はお墓を立てて父と祖父母の供養に使ったらほとんど残っていないんですが…」

それでも母は私がお金を持っていると思っているのか、時々現れる。

「そうだったのか」
「心配させてすみません」
「いや、立ち入ったことを聞いてすまなかった。でも、これは生活費として預かっておいて欲しい。その方が俺も助かる」
「でも・・・」

こんな立派なマンションに住まわせてもらって生活費まで出してもらったのでは私の方が申しわけないと断ったが、徹さんは聞いてはくれなかった。

「では、お預かりします」
「足りなかったら何時でも行ってくれ」

結局押し切られるようにして、私は現金の入った茶封筒を受け取った。