運命みたいな恋は、ほら!すぐそこに転がっている

「梨々香さん、そんな事情があるならなおさら次のアパートが決まるまでここにいたらいいよ」
「いえ、そんなわけにはいきません」

佐山先生は私の境遇に同情して言ってくれているのだろうけれど、これ以上甘える訳に行かない。

「弟さんのためにもお金は必要なんだろ?」
「それは、まあ、そうですが」

確かに、医学部受験を目指す竜星にはすごくお金がかかる。
だからこそ必死に勉強して国公立の医学部を目指しているのだが、それでもまとまったお金は必要になるだろう。

「俺も大学時代に父親を亡くして母や姉が苦労して大学を出してくれたから、気持ちはよくわかるんだ」
「え?」

佐山先生も竜星と似た境遇だったのかと驚いてから、じゃあこのマンションは何?と不思議に思った。
確かに事情があって住んでいるマンションなのだとは言っていたが、この豪華なマンションと苦労して医者になったという話が結びついてこない。

「それに、俺にも梨々香さんにここにいてもらいたい事情があってね」
「それは、何ですか?」

それこそが、佐山先生がここまで親切にしてくれる本当の理由のような気がして、私は身を乗り出してしまった。