運命みたいな恋は、ほら!すぐそこに転がっている

入院を勧められたものの半ば強引に病院を出た。
佐山先生は最後まで不満そうだったけれど、私に迷いはなかった。
本当にアパートが全焼したとなれば、家財道具も私の荷物も全てを失ったことになるし、今年の春に就職したばかりの私に全てを新しくするだけの経済的な余裕はない。こんな状況では心配で入院なんてしていられない。
私は不安を抱きながらも自分を鼓舞し足を速めた。
そして、アパートに近づくに連れて焦げ臭い匂いが鼻をついた。

周辺を行き交う制服の警察官や消防隊。
野次馬はほぼいなくなっているが、真っ黒なすすを顔につけた人が立ち尽くしていて、中には涙を流す人もいる。
私の住むアパートはそんなに大きなものではなく、住んでいたのも10世帯ほど。
古いけれど安さが魅力の建物だったため耐火設備も充分ではなかったのだろう。
目の前の真っ黒な塊が散らばる光景を見つめながら、私は本当にぼう然とした。