運命みたいな恋は、ほら!すぐそこに転がっている

「あの・・・」

いつまでも動かない男性に、さすがに居心地が悪くなり口を開いた。

「ここはバイトなのか?」

先ほどまでのキリッとした表情とは違い、少しくだけたような声音で私にどうなんだと聞いている。

「バイトということではないんです。ここは友人の実家が営む店で、今日はたまたま人手が足りないから応援に来ただけです」
「そうか、俺も大学時代の友人に誘われて飲みにきたんだ」
「そうですか、大学時代の・・・」

大学時代の友人と言われて違和感を覚えてしまうのは、おそらく若く見える見た目の性だろう。
こうして白衣を脱いで気さくに話をする彼はやはり同世代の若者にしか見えなくて、私は湧き上がる好奇心に勝てなかった。

「先生は、おいくつですか?」


不躾な質問かなと思いながら、どうしても気になった。
もちろんこの先もう二度と会う事は無いだろうなと思ったからこそ出た言葉だった。

「28歳だよ。大学生にでも見えた?」
「いえ・・・」

失礼と思いながら、驚きが顔に出た。

「童顔のせいで若く見られるんだ」
「ですよね」

言った瞬間しまったと口に手を当てた私を、彼は楽しそうに笑っている。

「白衣を着ていなければ、未だに医者には見てもらえないよ」
「そんな・・・」

あなたは立派なお医者さんですよ。そう言いかけた私を、ちょっとだけ口角を上げた彼が真っすぐに見つめている。

「僕は佐山徹、帝東大学病院の小児科医です」

彼は改めて自己紹介をしてくれた。私も釣られるように彼に向き直った。

「私は三上梨々香、23歳です。わかば保育園で保育士をしています」

今日2度目の出会いで、私たちはやっとお互いの名前を知ることができた。
でもこれきり、二度と会うことはないと思っていたのだが・・・