「ねー、帰ろうよ」
返事はしても動こうとしない私に、隣から聞こえる声が大きくなっていく。
「もう少しだけ待ちましょう。そろそろ呼ばれると思うから」
「えー、疲れたー」
「うん、そうだよね」
子供にとって2時間の待ち時間は決して短いものではない。
小児科の外来だけあって、キッズスペースに絵本や簡単なおもちゃは用意してあるが、利用している子は多くはない。
病院に来るからには皆どこかしら具合が悪いわけで、楽しく遊ぶ気持ちにはなれないだろうし、そういう周囲の視線を気にしてか子供を遊ばせている人は多くない。
「もう帰る」
とうとう男の子が上がってしまった。
元々じっとしていることが得意ではない子だと知っているから、そのうち騒ぎ出すのだろうと予想はしていた。
そうならないために絵本を読んだりお話をしたり気を紛らわせる努力をしてきたつもりだが、さすがにもう限界のようだ。
こうなってしまった彼を止めるのはなかなか難しいぞ。
そんなことを頭の片隅で考えながら、それでも私は男の子の腕をとった。
「ちょっと待って。頭をぶつけたんだから、ちゃんと診てもらわないとダメよ」
「ヤダー」
地団駄を踏みながら大きな声で叫ぶ姿に、周囲からは訝しげな視線を向けられる。
困ったな。
今にも待合を出て行こうとする腕を引きながら、何か気を紛らわせる手立てはないだろうかともう一度周囲を見回していると、
「木下晴斗くん、3番診察室へどうぞ」
ちょうど名前を呼ばれた。
返事はしても動こうとしない私に、隣から聞こえる声が大きくなっていく。
「もう少しだけ待ちましょう。そろそろ呼ばれると思うから」
「えー、疲れたー」
「うん、そうだよね」
子供にとって2時間の待ち時間は決して短いものではない。
小児科の外来だけあって、キッズスペースに絵本や簡単なおもちゃは用意してあるが、利用している子は多くはない。
病院に来るからには皆どこかしら具合が悪いわけで、楽しく遊ぶ気持ちにはなれないだろうし、そういう周囲の視線を気にしてか子供を遊ばせている人は多くない。
「もう帰る」
とうとう男の子が上がってしまった。
元々じっとしていることが得意ではない子だと知っているから、そのうち騒ぎ出すのだろうと予想はしていた。
そうならないために絵本を読んだりお話をしたり気を紛らわせる努力をしてきたつもりだが、さすがにもう限界のようだ。
こうなってしまった彼を止めるのはなかなか難しいぞ。
そんなことを頭の片隅で考えながら、それでも私は男の子の腕をとった。
「ちょっと待って。頭をぶつけたんだから、ちゃんと診てもらわないとダメよ」
「ヤダー」
地団駄を踏みながら大きな声で叫ぶ姿に、周囲からは訝しげな視線を向けられる。
困ったな。
今にも待合を出て行こうとする腕を引きながら、何か気を紛らわせる手立てはないだろうかともう一度周囲を見回していると、
「木下晴斗くん、3番診察室へどうぞ」
ちょうど名前を呼ばれた。



