運命みたいな恋は、ほら!すぐそこに転がっている

椿さんと別れてから、私と沙月さんは部屋に戻った。
おそらく沙月さんも椿さんについては知っているはずで、今この状況を把握してるとは思うけれど、あえてそれを口にする事はなかった。

「滅多に頼み事なんてしない徹が、心配だから様子を見てくれ来てくれって連絡してきたのよ」
フフフとなぜか楽しそうに沙月さんが笑う。

「ご心配かけてすみません」

リビングで向かい合い沙月さんが持ってきてくれたケーキと紅茶をいただきながら、
初めてお互いに名乗り合い、自己紹介をした。
沙月さんはやはりとっても美人で、エレガントで、良い所の奥様感が半端ない。

「徹から聞いているかもしれないけれど、私たちごくごく普通に育ったの。母は旧家の出身だったけれど、町工場を経営する普通の両親に平凡に育てられたわ」

そうですかとうなずきながらも、目の前の沙月さんと平凡という言葉にギャップがあり少しだけ違和感を覚えた。

「とは言え、私も徹も不思議な巡り合わせで今は贅沢な暮らしをさせてもらっている。その代償に煩わしさがないと言えば嘘になるけれど、私が主人と結婚して今の生活を選んだように、徹は祖父母や母の実家のことを気遣って、ここでの暮らしを始めたの」

徹の話では、沙月さんのご主人は三朝コンツェルンの御曹司らしい。
三朝コンツェルンと言えば日本を代表する財閥。
そこの跡取りと聞いてもちろん驚いたけれど、沙月さんには沙月さんの事情があったのだろう。

「でもね、今の徹にとって1番大事なのは梨々香さんあなたなの。昨日のことでしばらく周囲がわずらわしくなるかもしれないけれど、徹を信じてあげてちょうだい」
「はい」

私にとっても信じられるものは徹しかいない。
徹が私を選んでくれたように、私もただ徹を信じていこうと思う。

「ところで梨々香さん、顔色が悪いけれど本当に大丈夫?熱を計ってみなさい」
心配そうに顔を覗きこまれ、体温計を渡された。

ピピピ。
体温計の電子音と共に体温を確認する。

「え、嘘」
「まあ、40℃。凄い熱よ」

沙月さんの声に弾かれたように、私の体から力が抜けその場に座り込んでしまった。