運命みたいな恋は、ほら!すぐそこに転がっている

時間が経つにつれ酔っ払いが増えていく店内。
私に声を掛けたり、中には絡んでくるお客さんも出てきた。

「梨々香ちゃん、適当に聞き流してくれればいいからな」
「はい」

上手に断り切れずテーブルで足を止めることが増えていった私をマスターが気遣ってくれるが、強く出れない私の性格では適当に聞き流すなんて至難の業なのだ。
元々接客業には向かないのかもしれないし、だからこそ子供相手の保育士の仕事を選んだ。
子供好きな私にとって天職だと思いながらも、やはり人間関係のしがらみは未だに苦手だ。
そんなことを考えていた時、急に私の腕が引かれた。

「ねえお姉さん、もう一杯注いでよ」

声を掛けてきたのは顔を真っ赤にした先程の観光客の二人ずれ。
かなりお酒が入っているようで、目もとろんとしている。

「すみません。放してください」

そんなに強くつかまれたわけでもないから、振り払って逃げればいいのだと頭ではわかっている。
でも、私は恐怖心が先に立った。

「梨々香ちゃん」

カウンターの中から、異変を察したマスターが声を掛けてくれるが、私は反応すらできなかった。