運命みたいな恋は、ほら！すぐそこに転がっている

「ねえ、君は大学生？」

中年の男性二人連れの席にお刺身の盛り合わせを運んだところで、声を掛けられた。
見ると大きなスーツケースを持っているから、旅行に来た人たちなのかもしれない。
そんなことを考えながら、私は曖昧に相槌を打った。

「俺達旅行で東京に来ているんだ」
「そうですか、東京旅行を楽しんでくださいね」
「ああ。ところで、良かったら一杯だけお酌してくれないか？」
「え？」

運んでいったばかりの瓶ビールを差し出しニコニコしているおじさんに悪気があるようには見えず、一瞬悩んだ後に私はビールの瓶を手にした。
こういう店でお酌を求めるのはマナー違反だと思う。本当ならきっぱりと断るべきだったのだろう。
でも、もめ事を起こしたくない私はついお客さんの求めに従ってしまった。