運命みたいな恋は、ほら!すぐそこに転がっている

徹さんに詰め寄られ、私はすべてを打ち明けるしかなくなった。

「というわけで、本当に偶然マンションのエントランスで会っただけなのよ」
「その人はフィアンセって名乗ったのか?」
「ええ」

確かにそう私は告げられた。そして、徹さんにはふさわしくないと言われた。

「なあ梨々香、俺にフィアンセはいない」
「え?」

とっても辛そうな顔して絞り出すような徹さんの声。
その言葉の裏に何かの含みを感じた。
フィアンセはいないと徹さんは言ったけれど、全てが嘘だとは言わなかった。
私はそのことに気がついてしまった。

「フィアンセはいないけれど、そういう話はあるってこと?」

私との同居のきっかけは見合いを断るためだったから、徹さんの関知しないところで縁談が進んでいてもおかしくはない。恐らくそういうことだろう。

「どこかに勝手なことをするやつがいるのかもしれないな」

やっぱり。
結局フィアンセを名乗る彼女の言う事は全てが嘘ではない。

「嫌な思いをさせて悪かった」

自分が悪いわけでもないのに徹さんは謝ってくれる。
けれど、私は何も答えられなかった。