運命みたいな恋は、ほら!すぐそこに転がっている

「おい、梨々香」
「え?」
「どうしたんだと、ボーッとして」
「うん、ごめん」

夕食の時間。
考え事をして箸が止まってしまった私を徹さんが不思議そうに見ている。

「さっきから変だぞ。何かあったのか?」
「ううん、大丈夫」

本当は全然大丈夫じゃないけれど、さすがにあなたのフィアンセに会いましたとは言えないから、私は精一杯平気なふりをした。

今日の夕方、マンションのエントランスでいきなり声をかけられ、「徹さんのフィアンセです」と告げられた。
もちろん、現れた人の話を全て真に受けたわけではないが、もしも本当にフィアンセがいたなら徹さんはそれを隠して私との同居を続けるという不誠実なことをしたことになる。
そんなはずはないと思いながらも何の反応もできず、ただ黙って話を聞ききその場を別れた。
彼女は最後までとても不満そうな顔をしていて、別れ際「徹さんは丸川商事を継承する人です。あなたと一緒にいるような人じゃない」と立ち去ろうとする私の背中に言い放った。