運命みたいな恋は、ほら!すぐそこに転がっている

「もー、ヤダ。帰りたい」

ちょっと怒り気味に、男の子が声を上げた。
広い待合室のソファーで私にピタリと寄りかかり、じっとしているのもさすがに限界のようだ。

「うん。疲れたよね」

私はうなずいてから、あたりを見回す。
ここは都内の大学病院。
数年前に建て替えられたばかりで設備も整っているし、ドクターや看護師などスタッフの評判もいい。
救急患者やドクターヘリも受け入れる最先端の医療を提供する施設で、ここで診てもらえれば安心できると思えるような場所なのだが、その分患者も多く待ち時間はとても長い。
もし自分が受診をしようと思うなら、よほどの重症でもない限りこの病院が第一選択肢に上がることはないだろう。
まずはかかりつけのクリニックで診てもらい、必要なら紹介状をもらって来る。
ここはそういう場所だと思っている。
しかし、それは自分が患者だった場合だ。
患者がお年寄りや小さな子供ならそうも言ってはいられない。
少しでも大きくて設備の整った病院で診てもらいたいと思うのは当然の心理だろう。
だからこそ、私は今ここで2時間も待っているのだ。